ファクタリングでは、商品やサービスの提供によってすでに発生している売掛債権を、支払期日前にファクタリング会社へ譲渡して資金化するのが一般的です。
一方で、まだ商品を納品していない、工事が完成していない、サービスの提供が終わっていないなど、将来発生する予定の債権を資金化したいと考える事業者もいるでしょう。
現行民法では、一定の条件を満たす将来債権を譲渡すること自体は認められています。
しかし、法律上譲渡できることと、通常のファクタリングで実際に買い取ってもらえることは同じではありません。
将来債権には、取引の中止、契約の解除、数量の変更、検収不合格、代金の減額などによって、予定していた債権が発生しないリスクがあります。
そのため、一般的な請求書ファクタリングでは、債権額や支払期日が確定している売掛債権を審査対象とし、将来債権を対象外としている場合があります。
本記事では、将来債権を譲渡できる民法上の根拠、通常のファクタリングとの違い、債権の特定方法、譲渡制限特約、対抗要件、相殺、債権譲渡登記などの注意点を解説します。
将来債権とは?
将来債権とは、債権譲渡契約を締結した時点ではまだ発生していないものの、将来一定の事実や取引によって発生する可能性がある債権です。
例えば、次のような債権が考えられます。
- 今後締結される個別契約から発生する売掛債権
- 継続的な業務委託契約に基づき、翌月以降に発生する報酬債権
- 将来完成する工事に関する請負代金債権
- 将来提供する運送サービスに関する運送料債権
- 将来の診療や介護サービスによって発生する報酬債権
ただし、請求書がまだ発行されていないからといって、必ず法律上の将来債権に該当するとは限りません。
債権がいつ発生するかは、原因となる契約の内容や履行条件によって異なります。
契約締結時に債権が発生し、完成、納品、検収などによって支払期限が到来する構造もあれば、業務の完了によって初めて報酬債権が発生する構造もあります。
一方、ファクタリングの審査では、法律上の細かな発生時期だけでなく、次の事項を客観的な資料で確認できるかが重視されます。
- 商品やサービスの提供が完了しているか
- 売掛先の支払義務が確定しているか
- 請求金額が確定しているか
- 支払期日が決まっているか
- 返品、取消し、減額などの可能性が低いか
そのため、発注書や契約書が存在していても、作業が未完了であったり、検収前で請求額が確定していなかったりする場合は、通常のファクタリングでは買取対象にならないことがあります。
将来債権を譲渡できる民法上の根拠
将来債権の譲渡について定めているのが、民法第466条の6です。
同条第1項では、債権譲渡の意思表示をする時点で、債権が現に発生している必要はないとされています。
さらに、同条第2項では、譲渡契約の時点で債権が発生していなかった場合でも、その後に対象となる債権が発生すれば、譲受人が当然に取得すると定められています。
ただし、将来債権が予定どおり発生しなかった場合、譲受人が取得する債権も存在しません。
将来債権の譲渡契約を締結したからといって、存在しない売上や債権が新たに作り出されるわけではない点が重要です。
「将来債権を譲渡できる」と「資金化できる」は別
将来債権の譲渡が民法上有効であっても、ファクタリング会社がその債権を買い取るかどうかは別途判断されます。
一般的なファクタリングでは、ファクタリング会社が売掛債権の回収リスクを引き受け、その対価として買取代金から手数料を差し引きます。
しかし、将来債権には、売掛先の信用リスクだけでなく、債権そのものが発生しないリスクがあります。
例えば、次のような事情によって、予定していた債権が発生しない可能性があります。
- 発注が取り消された
- 継続契約が途中で解除された
- 工事や業務が完成しなかった
- 納品物が検収されなかった
- 数量や単価が変更された
- クレームによって代金が減額された
- 取引先との相殺によって支払額が減少した
このようなリスクを適切に評価するためには、売掛先の信用力だけでなく、基本契約、個別契約、過去の取引実績、発注状況、解約条件、検収条件などを確認しなければなりません。
そのため、将来債権を扱う資金調達は、一般的な請求書買取型ファクタリングよりも、継続的な債権流動化や債権譲渡担保、ABLなどに近い設計になる場合があります。
将来債権譲渡で必要となる「債権の特定」
将来債権を有効に譲渡するには、将来どの債権が発生したときに譲渡対象となるのかを、客観的に判定できるようにしておく必要があります。
単に「今後発生するすべての売上」などと記載するだけでは、対象範囲が曖昧になり、他の債権者や差押債権者との間で争いになる可能性があります。
債権を特定する要素としては、主に次の事項が考えられます。
債務者または債務者の範囲
特定の取引先に対する債権を対象とする場合は、取引先の商号、所在地などを記載します。
債務者がまだ決まっていない将来債権についても、事業、店舗、契約類型などの客観的な基準によって対象範囲を特定できる場合があります。
債権が発生する原因
どの契約や取引から発生する債権なのかを明らかにします。
例えば、特定の基本契約、業務委託契約、工事請負契約、商品の継続売買契約などを記載します。
債権の種類
売買代金債権、請負代金債権、業務委託報酬債権、運送料債権など、対象となる債権の種類を明らかにします。
債権の発生期間
将来一定期間内に発生する複数の債権を対象とする場合は、開始日と終了日を設定する方法が一般的です。
ただし、期間の設定だけが唯一の特定方法ではありません。
重要なのは、後から発生した債権が譲渡対象に含まれるかを客観的に判断できることです。
金額または金額の決定方法
譲渡契約時に正確な金額が確定していなくても、単価、数量、請求書、検収結果などによって金額を確定できる仕組みを定めることがあります。
最高裁判所も、将来債権譲渡では、発生原因、譲渡額、期間の始期・終期などによって対象債権を特定する必要があるとの考え方を示しています。
集合債権譲渡と将来債権譲渡の違い
集合債権譲渡とは、一定の基準に該当する複数の債権を、一つのまとまりとして譲渡する仕組みです。
元の文章では「集合債権譲渡は原則として現存債権を対象とする」としていましたが、この説明は正確ではありません。
集合債権譲渡の対象には、すでに発生している債権だけでなく、将来発生する債権を含めることもできます。
実際に裁判例でも、既発生債権と将来債権を一括して譲渡担保の目的とする契約が「集合債権譲渡担保契約」として扱われています。
整理すると、次のようになります。
集合債権譲渡は、複数の債権を一定の範囲でまとめて譲渡するという「対象のまとまり」に着目した概念です。
一方、将来債権譲渡は、契約時点でまだ発生していない債権を譲渡するという「債権の発生時期」に着目した概念です。
そのため、両者は対立する概念ではありません。集合債権譲渡の対象に将来債権が含まれることもあります。
将来債権の譲渡と譲渡予約の違い
将来債権の譲渡と、将来の債権譲渡を予約する契約は区別する必要があります。
将来債権を現時点で譲渡する契約では、対象債権が発生した時点で、民法第466条の6第2項により譲受人がその債権を当然に取得します。
これに対し、債権譲渡の予約は、将来一定の条件が成就した場合に、改めて債権譲渡を行う義務を負わせる契約です。
単なる予約にとどまる場合は、対象債権が発生しただけで当然に譲受人へ移転するとは限りません。
予約完結権の行使や、別途の譲渡行為が必要となる契約設計もあります。
契約書に「将来譲渡する」とだけ記載するのか、「現在の契約によって将来債権を譲渡する」のかによって法的効果が変わるため、文言を明確にする必要があります。
将来債権譲渡の期間に法律上の上限はある?
将来債権を譲渡できる期間について、「1年間まで」「3年間まで」などの一律の上限を定めた法律はありません。
期間が長いという理由だけで、直ちに契約が無効になるわけでもありません。
ただし、対象期間や対象範囲が過度に広く、譲渡人の事業活動を著しく制限したり、他の債権者に不当な不利益を与えたりする場合は、公序良俗違反などを理由として、契約の全部または一部が無効になる可能性があります。
判断に当たっては、主に次の事情が考慮されます。
- 譲渡人の資産状況
- 今後の営業や売上の見込み
- 譲渡の対象期間
- 対象となる債権の範囲
- 契約を締結した経緯
- 資金提供額と譲渡対象額のバランス
- 譲渡人の事業継続に与える影響
- 他の債権者に与える不利益
したがって、単純に「何年以内なら安全」と判断することはできません。
最高裁平成11年1月29日判決の考え方
将来債権譲渡の有効性を考えるうえで重要なのが、最高裁平成11年1月29日判決です。
この事件では、医師が、昭和57年12月から平成3年2月までに支払いを受ける予定の診療報酬債権を譲渡していました。
譲渡対象期間は8年を超えており、その一部について国税の差押えとの優先関係が争われました。
最高裁は、契約締結時に将来債権が発生する可能性が低かったとしても、そのことだけで債権譲渡契約の効力が当然に否定されるわけではないと判断しました。
一方で、次のような特段の事情がある場合は、契約の全部または一部が無効になる可能性があるとも示しています。
- 譲渡人の営業活動に対して、社会通念上相当な範囲を著しく超える制限を加えている
- 他の債権者に不当な不利益を与えている
- 契約内容や締結経緯から、公序良俗に反すると評価される
この判決は、「8年程度なら常に有効」という基準を示したものではありません。
期間だけで機械的に判断するのではなく、債権の特定状況、資金提供の合理性、契約内容、事業への影響などを総合的に判断するという点に意味があります。
譲渡制限特約がある将来債権はどうなる?
売掛先との基本契約には、債権の譲渡を禁止または制限する条項が設けられている場合があります。
現行民法では、譲渡制限特約が付されていたとしても、原則として債権譲渡そのものの効力は妨げられません。
以前の制度とは異なり、譲渡制限特約があるという理由だけで、直ちに譲渡が無効になるわけではありません。
ただし、譲受人が譲渡制限特約の存在を知っていた場合や、重大な過失によって知らなかった場合、債務者は譲受人への支払いを拒み、譲渡人への支払いなどをもって譲受人に対抗できることがあります。
将来債権には、さらに民法第466条の6第3項が適用されます。
将来債権を譲渡した後、債務者への通知または債務者の承諾によって対抗要件を備えるまでに譲渡制限特約が設けられた場合、譲受人はその特約を知っていたものとみなされます。
将来債権を扱う場合は、譲渡契約を締結した時点だけでなく、その後に締結・変更される基本契約や個別契約についても確認する必要があります。
将来債権譲渡の対抗要件
債権譲渡契約は、譲渡人と譲受人の合意によって成立します。
しかし、債務者や二重譲渡を受けた第三者、差押債権者などに譲渡を主張するためには、対抗要件を備えなければなりません。
民法第467条は、現に発生していない債権の譲渡を含め、次のいずれかがなければ、債務者その他の第三者に債権譲渡を対抗できないと定めています。
- 譲渡人から債務者への通知
- 債務者による承諾
さらに、二重譲渡を受けた別の譲受人など、債務者以外の第三者に対抗するには、通知または承諾を確定日付のある証書によって行う必要があります。
確定日付のある証書としては、内容証明郵便や公正証書などが用いられます。
将来債権についても、発生前に通知や承諾による対抗要件を備えることは可能です。
ただし、取引先へ債権譲渡の通知をすると、今後の取引や信用関係に影響する可能性があります。
法的な保全だけでなく、取引先との関係も考慮して通知方法や時期を検討する必要があります。
債権譲渡登記を利用できるケース
法人が金銭債権を譲渡する場合は、動産・債権譲渡特例法に基づく債権譲渡登記を利用できます。
債権譲渡登記によって、債務者に通知や承諾を求めることなく、債務者以外の第三者に対する対抗要件を備えることができます。
債務者がまだ特定していない将来債権についても、一定の方法で特定できれば登記の対象にすることが可能です。
ただし、債権譲渡登記には次の制限があります。
譲渡人が法人でなければならない
債権譲渡登記を利用できるのは、法人が金銭債権を譲渡する場合です。
個人事業主が譲渡人となる場合は、債権譲渡登記を利用できません。
通知または承諾によって対抗要件を備える必要があります。
登記だけでは債務者に対抗できない
債権譲渡登記は、債務者以外の第三者に対する対抗要件を備える制度です。
登記を行っただけでは、売掛先である債務者に対して、「自社が債権者である」と主張して直接支払いを請求できるわけではありません。
債務者に対して譲渡を主張するには、登記事項証明書を交付して通知するなど、特例法所定の手続きが必要です。
債権の存在を証明する制度ではない
債権譲渡登記は、譲渡された債権が実際に存在することや、記載された金額が正しいことを国が保証する制度ではありません。
存在しない架空債権を登記したからといって、有効な債権が生まれるわけではありません。
将来債権譲渡と相殺
将来債権を譲り受けても、売掛先が譲渡人に対して反対債権を持っている場合、相殺によって回収額が減少することがあります。
民法第469条では、債務者が対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権について、相殺を譲受人に主張できると定めています。
また、対抗要件具備後に取得した反対債権であっても、次のいずれかに該当する場合は、相殺を主張できることがあります。
- 対抗要件具備時より前の原因に基づいて発生した債権
- 譲渡された債権の発生原因となる契約に基づいて発生した債権
ただし、対抗要件具備後に第三者から取得した債権による相殺は、原則として認められません。
次のような商流上のリスクも確認する必要があります。
- 値引きやリベート
- 返品やキャンセル
- 契約不適合による損害賠償
- 違約金
- 立替金や前払金
- 相殺予約条項
- 売掛先による一括精算
- 検収差額や出来高調整
将来債権では金額が変動しやすいため、相殺や減額の可能性は特に重要な審査項目となります。
買戻し義務や償還請求権には注意が必要
将来債権は発生しない可能性があるため、ファクタリング会社が売主に対して買戻し義務や代金返還義務を求める契約も考えられます。
しかし、売掛先の倒産や支払不能など、本来ファクタリング会社が負担すべき回収リスクまで売主に負わせる契約には注意が必要です。
金融庁は、ファクタリングという名称を使用していても、経済的に貸付けと同様の機能を持つ取引は、貸金業に該当するおそれがあると注意喚起しています。
特に、債権を回収できなかった場合に売主が当然に買い戻す、売主へ全面的な償還請求を行うなど、実質的に売主が返済義務を負っている契約は、真正な債権売買ではなく、債権を担保とした貸付けと評価される可能性があります。
一方、架空債権、二重譲渡、契約内容の虚偽、すでに解除されていた取引など、売主側の表明保証違反について責任を負わせることまで、直ちに貸付けを意味するわけではありません。
重要なのは、どのリスクをファクタリング会社が負い、どのリスクを売主が負う契約になっているかです。
将来債権を利用するときの確認事項
将来債権の譲渡や資金化を検討するときは、少なくとも次の事項を確認する必要があります。
債権がすでに発生しているか
請求書の発行時期だけでなく、契約内容、納品、役務提供、工事完成、検収などの状況を確認します。
将来の債権を客観的に特定できるか
債務者、原因契約、債権の種類、発生期間、金額の決定方法などを明らかにします。
基本契約に譲渡制限特約がないか
基本契約、取引約款、発注書、個別契約などを確認します。契約変更後に新たな譲渡制限条項が追加されていないかも確認が必要です。
取消しや減額の可能性がないか
発注取消し、解約、返品、検収不合格、値引き、損害賠償、相殺などの可能性を確認します。
対抗要件をどの方法で備えるか
通知、承諾、債権譲渡登記のどの方法を利用するかを検討します。登記を利用する場合でも、債務者への対抗手続きが別途必要です。
契約が実質的な貸付けになっていないか
売主が回収不能リスクを全面的に負担する契約や、買戻しを前提とする契約になっていないか確認します。
ファクタリング会社の取扱基準を確認する
民法上譲渡できる将来債権であっても、ファクタリング会社が買い取るとは限りません。
申込み前に、未納品、未検収、請求額未確定などの債権を取り扱っているか確認することが必要です。
まとめ:将来債権は譲渡できるが、必ずファクタリングできるわけではない
将来債権は、民法上、譲渡の対象にできます。
民法第466条の6第1項は、債権譲渡について、譲渡の意思表示をした時点で債権が現に発生している必要はないと定めています。
また、同条第2項により、譲渡した将来債権が実際に発生した場合は、譲受人がその債権を当然に取得します。
ただし、民法が認めているのは、あくまで「将来債権を譲渡する契約の有効性」です。
ファクタリング会社に、将来の売上を必ず買い取る義務があるわけではありません。
実際に買取対象とするかどうかは、各社のサービス内容や審査基準によって異なります。
金融庁は、一般的なファクタリングを、事業者が保有している売掛債権等をファクタリング会社が期日前に買い取るサービスと説明しています。
通常の請求書ファクタリングは、すでに発生し、金額や支払期日を確認できる売掛債権を前提とするサービスと考えるのが適切です。
したがって、「将来債権は民法上譲渡できる」という説明だけを見て、「発注予定や見込売上だけで通常のファクタリングを利用できる」と判断しないよう注意が必要です。

