キャッシュフロー計算書を見ると、営業活動による資金繰りの計算で「減価償却費」がプラス表示されていることがあります。
そのため、次のような疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
「減価償却費は費用なのに、なぜキャッシュフロー計算書ではプラスになるのか」
「減価償却費を多く計上すれば、会社のキャッシュも増えるのか」
結論からいうと、減価償却費がプラスされるのは、減価償却費が計上時点では現金の支出を伴わない「非資金費用」だからです。
間接法によるキャッシュフロー計算書では、会計上の利益から実際の現金収支へ数字を調整するため、利益から差し引かれている減価償却費を足し戻します。
ただし、足し戻された金額が新たに入金されるわけではありません。
減価償却費を計上しただけで、手元の現金が自動的に増えることもありません。
本記事では、減価償却費がキャッシュフロー計算書でプラスになる理由を、損益計算書や貸借対照表との関係、直接法と間接法の違い、具体的な計算例を用いてわかりやすく解説します。
減価償却費がキャッシュフロー計算書でプラスになる理由
減価償却費がキャッシュフロー計算書でプラスになるのは、利益から差し引かれている「現金支出を伴わない費用」を取り消すためです。
減価償却費は損益計算書上の費用であり、会社の利益を減少させます。
しかし、減価償却費を計上するたびに、銀行口座から現金が出ていくわけではありません。
固定資産を現金で購入した場合、現金が減るのは原則として購入代金を支払った時点です。
その後、毎期計上する減価償却費は、すでに取得した固定資産の取得原価を複数の事業年度に配分する会計処理です。
したがって、間接法による営業キャッシュフローでは、次のように調整します。
税金等調整前当期純利益
+減価償却費
±売掛金や棚卸資産、買掛金などの増減
±その他の調整項目
=営業活動によるキャッシュフロー
減価償却費を足し戻すのは、キャッシュを増やすためではありません。
利益を計算する際には減価償却費が差し引かれているものの、当期の現金は減っていないため、その差額を元に戻しているだけです。
日本の会計基準では、間接法は税金等調整前当期純利益に、減価償却費などの非資金損益項目や営業資産・負債の増減などを加減して、営業活動による資金繰りを表示する方法とされています。
キャッシュフロー計算書とは
キャッシュフロー計算書とは、一定期間に会社の現金および現金同等物がどのように増減したのかを示す財務諸表です。
損益計算書が「会社がどれだけ利益を上げたか」を表すのに対して、キャッシュフロー計算書は「会社の現金がどのように動いたか」を表します。
会計上の利益と現金の増減は、必ずしも一致しません。
キャッシュフロー計算書が対象とする資金は、現金および現金同等物です。
現金同等物とは、容易に換金でき、価値変動のリスクが小さい短期投資を指します。
営業活動によるキャッシュフロー
営業活動によるキャッシュフローは、会社の本業から生じた現金の流れを示します。
主な内容は、商品やサービスの販売による入金、商品の仕入代金、人件費、経費、法人税等の支払いなどです。
営業キャッシュフローが継続的にプラスであれば、一般的には本業によって現金を生み出せていると考えられます。
ただし、営業キャッシュフローがプラスであっても、設備投資や借入金返済が大きければ、会社全体の現金残高が減少することがあります。
投資活動によるキャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフローは、将来の収益獲得を目的とした投資に関する現金の流れを示します。
具体的には、次のような取引が含まれます。
・建物や機械、車両などの固定資産の購入
・固定資産の売却
・投資有価証券の取得や売却
・貸付金の支出や回収
固定資産の取得による現金支出は、原則として投資活動によるキャッシュフローに表示されます。
財務活動によるキャッシュフロー
財務活動によるキャッシュフローは、資金調達や返済に関する現金の流れを示します。
主な取引は、借入れによる入金、借入金の元本返済、社債の発行や償還、株式の発行、配当金の支払いなどです。
借入金を受け取ると財務キャッシュフローはプラスになり、借入金の元本を返済するとマイナスになります。
キャッシュフロー計算書では、営業・投資・財務の3区分を確認することで、会社の現金が本業、設備投資、資金調達のどこから生じ、どこへ使われているのかを把握できます。
減価償却費とは
減価償却費とは、建物、機械、車両、器具備品などの固定資産の取得原価を、その資産を使用する期間にわたって費用配分するための会計上の費用です。
たとえば、事業で5年間使用する機械を500万円で購入したとします。
購入した年に500万円の全額を費用にすると、その年の利益だけが大きく減少し、翌年以降は機械を使用して売上を上げているにもかかわらず、機械に関する費用が計上されないことになります。
そこで、取得原価を使用期間に配分し、各年度の費用として計上します。
単純に5年間の定額法で償却する場合は、毎期100万円ずつ減価償却費を計上するイメージです。
なお、減価償却は、固定資産の時価が実際にいくら下落したかを測定する処理ではありません。
基本的には、固定資産の取得原価を耐用期間にわたって各事業年度へ配分する手続です。
固定資産の購入と減価償却では現金が動く時期が異なる
減価償却費を理解するうえで重要なのが、固定資産の購入代金を支払う時期と、減価償却費を計上する時期の違いです。
たとえば、会社が現金1,000万円で機械を購入し、その機械を5年間にわたって定額法で減価償却するとします。
購入した時点では、現金が1,000万円減少します。この1,000万円は、原則として投資活動によるキャッシュフローのマイナスです。
一方、損益計算書では、1,000万円を購入年度にすべて費用計上するのではなく、毎期200万円ずつ減価償却費として計上します。
購入時の処理と、その後の減価償却の関係は次のようになります。
・購入時
投資キャッシュフロー:1,000万円のマイナス
・1年目から5年目
損益計算書:毎期200万円の減価償却費
減価償却費を計上する1年目から5年目には、減価償却そのものによる追加の現金支出は発生しません。
そのため、間接法の営業キャッシュフローでは、損益計算書上で利益から差し引かれた200万円を足し戻します。
数字で見る減価償却費の足し戻し
減価償却費を計上する前の利益が500万円、当期の減価償却費が200万円だったとします。
損益計算書上の利益は、次のようになります。
減価償却前の利益500万円
-減価償却費200万円
=税金等調整前当期純利益300万円
しかし、200万円の減価償却費については、当期に現金を支払っていません。
そこで、間接法では次のように計算します。
税金等調整前当期純利益300万円
+減価償却費200万円
=500万円
売掛金や在庫、買掛金、税金などの影響を考慮しなければ、減価償却前の500万円に戻ります。
ここで重要なのは、200万円の現金が新たに入金されたのではないという点です。
利益計算で差し引かれていたものの、現金支出がなかった200万円を足し戻し、利益を現金ベースの数字へ修正しています。
減価償却費を増やしても営業キャッシュフローは増えない
減価償却費を多く計上すると、間接法のキャッシュフロー計算書では足し戻す金額も大きくなります。
しかし、原則として、減価償却費を増やしただけで営業キャッシュフローが同額増えるわけではありません。
たとえば、減価償却費を100万円増やした場合、ほかの条件が同じであれば、税金等調整前当期純利益は100万円減少します。
一方、営業キャッシュフローの計算では、減価償却費の足し戻しが100万円増えます。
税金等調整前当期純利益:100万円減少
減価償却費の足し戻し:100万円増加
両者が相殺されるため、税金やほかの調整項目を考慮する前の営業キャッシュフローは変わりません。
したがって、「減価償却費を増やせば、その分だけキャッシュが増える」という理解は誤りです。
税金の支払いが減ることでキャッシュが残る場合はある
減価償却費が税務上も損金として認められれば、課税所得が減少し、法人税等の支払額が減る可能性があります。
この場合、減価償却費そのものが現金を生み出すのではなく、税負担が軽くなることで結果的に手元資金が残りやすくなります。
ただし、会計上計上した減価償却費がすべて無条件に税務上の損金になるわけではありません。
法人税法上は、償却方法や耐用年数、償却限度額、損金経理などのルールがあります。
また、減価償却による税負担の軽減は、固定資産の購入代金そのものが不要になることを意味しません。
設備投資を行えば、その購入代金の支払いによって現金が減少します。
節税効果だけを理由に過大な設備投資を行うと、かえって資金繰りが悪化する可能性があります。
直接法と間接法で減価償却費の見え方が異なる
営業活動によるキャッシュフローの表示方法には、直接法と間接法があります。
どちらの方法を採用しても、最終的な営業活動によるキャッシュフローの合計額は一致します。
ただし、計算方法と表示方法が異なります。
間接法
間接法は、税金等調整前当期純利益から計算を始め、減価償却費などの非資金損益項目、売掛金や棚卸資産、買掛金などの増減を調整する方法です。
減価償却費はすでに利益から差し引かれているため、現金支出を伴わない費用としてプラス調整します。
なお、日本基準の標準的な間接法では、「当期純利益または税引前利益のどちらからでもよい」というわけではなく、税金等調整前当期純利益を出発点とします。
法人税等の支払額は、別途、営業活動によるキャッシュフローに表示されます。
直接法
直接法は、営業収入、仕入代金の支払い、人件費の支払いなど、主要な取引ごとの現金収支を直接集計する方法です。
実際に現金が動いた取引を集計するため、現金支出を伴わない減価償却費は計算過程に登場しません。
そのため、直接法の営業キャッシュフローには「減価償却費の足し戻し」という項目がありません。
減価償却費が表示されていないからといって、固定資産がキャッシュフローに関係していないわけではありません。
固定資産の購入代金を支払った場合は、投資活動によるキャッシュフローに表示されます。
損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書の関係
減価償却費の仕組みを正しく理解するためには、3つの財務諸表の役割を分けて考える必要があります。
損益計算書
損益計算書は、一定期間の収益と費用から利益を計算する財務諸表です。
減価償却費は費用として計上され、営業利益や経常利益、税金等調整前当期純利益などを減少させます。
ただし、減価償却費を計上した時点で現金が出ていくとは限りません。
貸借対照表
貸借対照表は、決算日時点における資産、負債、純資産の残高を示す財務諸表です。
固定資産を購入すると、有形固定資産などの金額が増加します。
その後、減価償却を行うことで減価償却累計額が増え、固定資産の帳簿価額が減少していきます。
現金で購入した場合は、現金・預金が減少する一方で固定資産が増加します。
キャッシュフロー計算書
キャッシュフロー計算書は、一定期間の現金および現金同等物の増減を示します。
固定資産を現金で購入すれば、投資活動によるキャッシュフローに支出が表示されます。
一方、購入後に計上する減価償却費は現金支出を伴わないため、間接法では営業活動によるキャッシュフローで足し戻されます。
つまり、固定資産に関する取引は、次のように各財務諸表へ反映されます。
損益計算書
減価償却費を費用として計上する
貸借対照表
固定資産の帳簿価額が減少する
キャッシュフロー計算書
購入代金の支払いを投資キャッシュフローに表示し、間接法では減価償却費を営業キャッシュフローで足し戻す
減価償却費が足し戻されても現金が増えない主なケース
減価償却費が営業キャッシュフローでプラス調整されていても、会社の現金残高が増えるとは限りません。
会社全体の現金残高は、営業・投資・財務のすべてのキャッシュフローによって決まるからです。
売掛金が増加している
売上を計上しても、代金を回収していなければ現金は増えません。
売掛金が増加した場合、利益には売上が反映されているものの現金は未回収であるため、間接法では営業キャッシュフローのマイナス要因になります。
売上が伸びている会社ほど、売掛金の増加によって資金繰りが厳しくなるケースがあります。
棚卸資産が増加している
商品や原材料を仕入れて在庫が増えると、その分だけ資金が在庫に固定されます。
在庫は販売して代金を回収するまで現金化されないため、棚卸資産の増加は営業キャッシュフローのマイナス要因です。
減価償却費の足し戻し額が大きくても、在庫の増加額がそれを上回れば、営業キャッシュフローは減少します。
設備投資の支払いが大きい
営業キャッシュフローがプラスでも、新しい機械や建物、車両などを購入すれば、投資キャッシュフローが大きくマイナスになることがあります。
設備投資は将来の売上拡大につながる可能性がありますが、短期的には現金を減少させます。
減価償却費の足し戻しだけを見るのではなく、固定資産の取得による支出額も確認することが重要です。
借入金の返済が多い
借入金の元本返済は、損益計算書上の費用ではありませんが、現金を減少させます。
元本返済は財務活動によるキャッシュフローのマイナスとして表示されます。
そのため、営業キャッシュフローがプラスでも、借入金の返済額が大きければ、会社全体の現金残高は減少する可能性があります。
利息の支払いが多い
支払利息は、利益と現金の両方を減少させます。
日本基準では、利息の表示について2つの方法が認められています。
一つは、受取利息、受取配当金、支払利息を営業活動に、支払配当金を財務活動に表示する方法です。
もう一つは、受取利息と受取配当金を投資活動に、支払利息は営業活動、支払配当金を財務活動に表示する方法です。
選択した方法は継続して適用する必要があります。
そのため、「支払利息は必ず営業キャッシュフローに表示される」とは限りません。
固定資産を借入金やリースで取得した場合
固定資産を購入する際、必ずしも手元の現金だけで支払うとは限りません。
たとえば、金融機関から借入れを行い、その資金で機械を購入した場合は、一般的に次の2つのキャッシュフローが発生します。
借入れによる入金:財務キャッシュフローのプラス
機械購入代金の支払い:投資キャッシュフローのマイナス
借入金と購入代金が同額であれば、購入時点の現金残高への影響が小さく見える場合があります。
しかし、その後は借入金の元本返済や利息支払いが発生します。
また、ファイナンス・リースによる資産の取得など、取得時に現金の移動を伴わない重要な取引は、キャッシュフロー計算書の本表には含まれず、重要な非資金取引として注記の対象になる場合があります。
減価償却費から会社の資金繰りを判断するときのポイント
減価償却費は、会社のキャッシュ創出力を分析するうえで重要な項目ですが、減価償却費だけで資金繰りの良し悪しを判断することはできません。
まず確認したいのは、営業キャッシュフローが継続してプラスになっているかどうかです。
次に、売掛金や在庫が過度に増えていないか、設備投資額が営業キャッシュフローに対して過大ではないか、借入金の返済負担が重くないかを確認します。
減価償却費が大きい会社には、過去に多額の設備投資を行っている会社や、製造業、運送業、不動産業など、多くの固定資産を必要とする会社が含まれます。
減価償却費が大きいという事実だけで、資金に余裕がある会社とも、資金繰りが厳しい会社とも判断できません。
次の項目を合わせて確認する必要があります。
・営業キャッシュフロー
・売掛金の増減
・棚卸資産の増減
・固定資産の取得による支出
・借入金の調達額と返済額
・法人税等の支払額
・期末の現金および現金同等物残高
まとめ
減価償却費がキャッシュフロー計算書でプラスになるのは、減価償却費が計上時点では現金支出を伴わない非資金費用だからです。
間接法では、税金等調整前当期純利益から営業キャッシュフローを計算します。
利益にはすでに減価償却費が費用として反映されているため、現金ベースの数字へ修正する過程で減価償却費を足し戻します。
ただし、足し戻しは新たな入金を意味するものではありません。
固定資産の購入代金を現金で支払った場合、その支出は原則として投資活動によるキャッシュフローに表示されます。
購入後に計上する減価償却費は、取得原価を使用期間に配分する会計処理であり、追加の現金支出を発生させるものではありません。
会社の資金繰りを判断するときは、減価償却費の足し戻しだけでなく、売掛金や在庫の増減、設備投資、借入金返済、税金の支払いなども確認する必要があります。
減価償却費は「キャッシュを増やす費用」ではなく、利益と現金の違いを理解するための代表的な調整項目として捉えることが重要です。

