「在庫を現金化して資金繰りを改善したい」と考えたとき、選択肢として目にすることがあるのが「在庫ファクタリング」です。
在庫ファクタリングとは、一般に企業が保有している商品在庫を買取事業者などへ売却し、その代金を受け取ることで資金化する方法を指します。
ただし、金融庁は一般的なファクタリングについて「事業者が保有する売掛債権等を期日前に買い取るサービスで、法的には債権の売買(債権譲渡)契約」と説明しています。
そのため、商品そのものを売却する「在庫ファクタリング」は、厳密には通常の売掛債権ファクタリングとは別の仕組みと考えたほうが正確です。
本記事では、一般に在庫ファクタリングと呼ばれているサービスについて、仕組みやメリット・デメリット、通常のファクタリングやABLとの違い、利用前に確認したいポイントを解説します。
在庫ファクタリングとは?
在庫ファクタリングとは、企業が保有している商品や製品などの在庫を買取事業者へ売却し、現金化する方法の通称です。
一般的なファクタリングが売掛債権を売却するのに対し、在庫ファクタリングでは「在庫そのもの」を売却します。
金融庁が示す一般的なファクタリングの定義は売掛債権等の債権売買であるため、「在庫ファクタリング」という名称が使われていても、実態としては在庫買取や在庫処分サービスに近い取引となるケースがあります。
そのため、利用するときはサービス名だけを見るのではなく、
「何を売却する契約なのか」
「所有権がいつ移転するのか」
「買戻し義務があるのか」
といった契約内容を確認することが重要です。
在庫ファクタリングの仕組み
企業が保有する商品在庫について、買取事業者が種類、数量、状態、市場価格、需要、再販売の可能性などを確認して査定します。
その査定結果をもとに買取価格が提示され、企業が条件に合意すれば在庫を売却し、買取代金を受け取ります。
売掛債権ファクタリングでは、売掛先の信用力や売掛債権の実在性などが重要になります。
一方、在庫買取では、在庫そのものにどの程度の換価価値があるかが重要です。
例えば、同じ仕入価格の商品でも、市場で需要が高くすぐ再販売できる商品と、型落ちや季節外れの商品では査定額が大きく異なる可能性があります。
また、商品の状態、使用期限、賞味期限、型番、保管状況、再販ルートなどによっても評価は変わります。
在庫を現金化する一般的な流れ
利用する事業者によって異なりますが、一般的には以下のような流れで進みます。
まず、買取事業者へ申し込み、商品名、数量、型番、仕入時期、保管場所などの在庫情報を提出します。
その後、写真や在庫表による簡易査定、必要に応じて現物確認や検品が行われ、買取価格が提示されます。
条件に合意すると売買契約を締結し、商品を引き渡した後、買取代金が支払われます。
売掛債権をオンライン上の書類だけで確認できるファクタリングと異なり、在庫買取では商品の確認・検品・搬出・配送などが必要になるケースがあります。
そのため、緊急の資金需要に利用する場合には、
「いつ査定が確定するのか」
「商品引渡し前に入金されるのか、引渡し後なのか」
まで事前に確認しておきましょう。
通常のファクタリングとの違い
在庫ファクタリングと通常のファクタリングは、「資産を売却して現金化する」という点では似ていますが、売却する対象が異なります。
在庫ファクタリングでは、売掛債権ではなく、商品や製品そのものを売却します。
したがって、売掛金がほとんど発生しない小売業などでも、換価できる在庫を保有していれば資金化できる可能性があります。
ただし、在庫を売却すると、その商品を自社で販売して得られるはずだった売上や利益も失います。
短期的な資金繰りだけを見るのではなく、「通常販売した場合の利益」と「今すぐ売却して得られる資金」を比較する必要があります。
在庫ファクタリングとABLの違い
在庫を活用した資金調達方法として、在庫ファクタリングと混同されやすいのがABLです。
ABLとは「Asset Based Lending」の略称で、在庫や売掛債権などの事業資産を担保として資金を借りる手法です。
日本政策投資銀行はABLについて、集合動産、在庫、売掛債権などの流動資産を担保として活用する金融手法と説明しています。
また、中小企業庁も在庫や売掛債権を担保とする「流動資産担保融資保証制度」を設けています。
両者の最大の違いは、在庫を「売る」のか「担保にして借りる」のかという点です。
在庫ファクタリングでは在庫を売却するため、適正な売買であれば借入金のような元本返済義務は生じません。
一方、ABLはあくまで融資です。
借りた資金について元本と利息を返済する必要があります。
ABLでは在庫を保有しながら事業を続けられる
ABLでは、在庫や売掛債権などを担保に設定しながら事業活動を継続する仕組みが利用されます。
中小企業庁の制度でも、商品、製品、原材料などの在庫を担保として融資に活用できる仕組みが整えられています。
そのため、通常の営業活動で販売するために必要な在庫を手放したくない企業にとっては、在庫売却よりABLのほうが適している場合があります。
一方で、ABLは融資であるため、担保価値だけで融資が決まるわけではありません。
金融機関による審査が行われ、利用する仕組みによっては在庫状況などについて継続的な報告を求められることもあります。
実際に金融機関のABLでは、在庫や売掛金について定期報告を求める仕組みも採用されています。
したがって、「不要な在庫を処分しながら現金を作りたい」なら在庫売却、
「販売を継続する在庫を手元に残したまま資金を借りたい」ならABL、
というように目的を整理すると判断しやすくなります。
在庫ファクタリングのメリット
在庫ファクタリングの大きなメリットは、現金化と在庫圧縮を同時に進められることです。
在庫は貸借対照表では資産ですが、実際に販売されるまで現金にはなりません。
大量の在庫を抱えている企業では、仕入れに使った資金が商品として固定され、給与、外注費、家賃、新たな仕入代金などに使える現金が不足することがあります。
在庫を売却すれば、こうした資金を再び現金へ変えられます。
借入を増やさずに資金を確保できる
適正な在庫の売買であれば、銀行融資やABLとは異なり借入ではありません。
したがって、借りた資金のように元本を返済する必要はなく、借入以外の方法で手元資金を確保したい企業にとって選択肢になります。
ただし、「返済がない=コストがない」という意味ではありません。
通常販売すれば高い利益を得られる商品を安値で一括売却した場合、その差額は実質的な経済的負担になります。
査定額だけを見るのではなく、自社で販売を続ける場合と比較することが重要です。
余剰在庫や滞留在庫を整理できる
販売計画を上回って仕入れてしまった商品や、需要が落ちた商品を長期間保有すると、資金が在庫として固定されます。
さらに、倉庫代、棚卸作業、人件費、保険料、商品管理費などが発生することもあります。
特に流行商品、季節商品、型番商品のように時間の経過によって市場価値が下がりやすい商品では、売却判断を先延ばしにするほど回収可能額が低下する可能性があります。
多少安くても早い段階で売却し、回収した資金を売れ筋商品の仕入れなどへ振り向けることが合理的な場合もあります。
在庫管理コストの削減につながる
不要な在庫を減らせば、倉庫スペースや棚卸作業などの負担も軽減できます。
在庫が増えすぎると、保管場所だけでなく、数量管理、品質管理、商品の移動、棚卸などに継続的なコストが発生します。
在庫売却を単なる資金調達としてではなく、SKUの整理や在庫回転率を改善するための施策として活用することも考えられます。
在庫ファクタリングのデメリット
一方、在庫ファクタリングには、希望する金額を調達できない可能性や、商品を手放すことによる機会損失があります。
利用前にはメリットだけでなくデメリットも理解しておきましょう。
仕入価格より大幅に安くなることがある
在庫の買取価格は、必ずしも仕入価格や店頭販売価格を基準に決まるわけではありません。
買取事業者は商品を買い取った後に再販売する必要があるため、販売価格の下落リスク、物流費、検品費、保管費、販売手数料、売れ残りリスクなどを考慮して査定します。
その結果、仕入価格を大きく下回る価格が提示される可能性があります。
なお、「在庫ファクタリングの換金率は○%」という一律の公的基準はありません。
商品ジャンルや状態、需要、数量、販売ルートによって査定額は大きく変わるため、「10〜50%」など特定の換金率を一般的な相場として捉えるのは適切ではありません。
すべての在庫を買い取ってもらえるわけではない
在庫が存在しているだけで資金化できるわけではありません。
市場で需要がほとんどない商品や著しく劣化している商品、真贋を確認できない商品などは、買取対象外となる可能性があります。
反対に、型番や数量、商品状態が明確で、中古市場や二次流通市場で売却しやすい商品は査定しやすいと考えられます。
申し込み前に在庫表を作成し、商品名、数量、型番、仕入時期、保管状態などを整理しておくとよいでしょう。
将来の売上・利益を失う
在庫を売却すれば、その商品を自社で販売することはできなくなります。
例えば、数か月後に定価に近い価格で売れる可能性が高い商品を資金繰りのために大幅な値引き価格で売却すると、短期的には現金が増えても、中長期的な利益を減らすことになります。
そのため、「どの商品を売るのか」という選別が非常に重要です。
通常販売できる主力商品まで一括売却するのではなく、長期滞留品、過剰在庫、型落ち商品などから優先して検討したほうがよい場合があります。
古物商許可は必ず必要?
在庫買取について「買取業者なら古物商許可が必ず必要」と説明されることがありますが、これは正確ではありません。
古物営業法上の「古物」とは、一度使用された物品だけでなく、使用されていなくても「使用のために取引されたもの」などを含みます。
こうした古物を営業として売買する場合には、公安委員会の古物商許可が問題となります。
一方、メーカーや卸売業者から流通してきた新品在庫など、取引する商品や商流によっては古物営業に該当しない場合があります。
したがって、「在庫買取事業者=必ず古物商許可が必要」と一律に判断するのではなく、取り扱う商品と商流を確認する必要があります。
古物に該当する商品を取り扱う事業者の場合には、許可の有無や事業者情報を確認することが取引先選びの一つの材料になります。
古物商には、古物を買い受ける際の相手方確認など、法律上の義務も定められています。
在庫ファクタリングが向いているケース
在庫ファクタリングという形での在庫売却が向いているのは、単純に「資金が足りない企業」ではなく、資金不足の原因として過剰在庫や滞留在庫を抱えているケースです。
例えば、需要予測を誤って商品を仕入れすぎた、シーズン終了前に季節商品を処分したい、型落ちになる前に旧モデルを現金化したい、倉庫縮小に伴って在庫を減らしたい、といったケースが考えられます。
このような場合、借入によって現金だけを補充すると、過剰在庫自体は残ります。
不要な在庫を売却すれば、在庫を減らしながら現金を確保できるため、資金繰りと在庫構造を同時に改善できる可能性があります。
反対に、短期間で通常価格による販売が見込める主力商品や、事業継続に必要不可欠な在庫については、売却することが必ずしも合理的とは限りません。
その場合は、在庫を担保に融資を受けるABLなども含めて比較する必要があります。
利用前に確認しておきたいポイント
在庫を売却するときに最も重要なのは、「査定額」ではなく最終的に受け取れる金額です。
見積書では、商品の買取価格だけでなく、送料、搬出費、検品費、保管費など別途発生する費用がないか確認しましょう。
また、いつ所有権が移転するのか、商品の引渡し方法、入金日、契約後のキャンセル条件なども重要です。
特に注意したいのが買戻しに関する条項です。
金融庁は売掛債権ファクタリングについて、契約名称が債権売買であっても、売主が債権を買い戻す仕組みや、回収できなかった場合に売主自身の資金で支払わなければならない仕組みなど、経済的に貸付けと同様の機能を持つ取引は貸金業に該当するおそれがあると注意喚起しています。
この金融庁の注意喚起は主として売掛債権ファクタリングに関するものですが、在庫買取でも「売買」と説明されながら実際には買戻しや返済を前提とする契約であれば、契約の実質を慎重に確認する必要があります。
契約内容に疑問がある場合は、契約前に弁護士などの専門家へ相談することが安全です。
悪質な業者にも注意する
金融庁は、ファクタリングを装って無登録業者が違法な貸付けを行う事案が確認されているとして注意を呼びかけています。
高額な手数料によって、かえって資金繰りが悪化する危険性についても指摘しています。
ただし、これは主に売掛債権ファクタリングについての注意喚起であり、「在庫ファクタリングを名乗る業者に違法業者が多い」という意味ではありません。
在庫買取サービスを利用する場合も、契約書を出さない、費用の説明がない、即決を強要する、売買契約にもかかわらず定期的な返済を要求する、といった不自然な条件があれば慎重に判断しましょう。
売買なのか貸付けなのか判断できない契約や悪質な取立てが疑われる場合は、弁護士への相談に加え、金融庁金融サービス利用者相談室や警察などへの相談も検討できます。
金融庁も偽装ファクタリングや悪質な取立てについて、専門家や警察等への相談を案内しています。
まとめ
在庫ファクタリングとは、一般に企業が保有している商品在庫を売却し、現金化するサービスを指します。
ただし、金融庁が説明する一般的なファクタリングは売掛債権等を対象とした債権売買です。
そのため、「在庫ファクタリング」は法律上の独立したファクタリング類型というより、実態としては在庫買取・在庫換金サービスとして理解するほうが適切です。
メリットは、借入を増やさずに資金を確保できることや、余剰在庫・滞留在庫を減らし、保管や管理の負担を軽減できることです。
一方、通常販売する場合より買取価格が低くなる可能性があり、売却した商品から将来得られたはずの売上や利益を失う点には注意が必要です。
また、在庫を活用しながら商品販売を継続したい場合には、在庫や売掛債権などを担保に融資を受けるABLという選択肢もあります。
ABLは在庫売却ではなく融資であるため、返済義務が生じる点が大きな違いです。
在庫を現金化するときは、「いくらで売れるか」だけでなく、「通常販売した場合に得られる利益」「保管を続けるコスト」「資金が必要な時期」を比較しましょう。
過剰在庫そのものが資金繰り悪化の原因になっているのであれば、不要な在庫を早期に現金化することは有効な経営改善策になり得ます。
一方、事業継続に必要な在庫まで売却すると、その後の売上に影響する可能性があります。
在庫売却、通常のファクタリング、ABL、銀行融資など、それぞれの特徴を理解したうえで、自社の資金需要と在庫状況に適した方法を選択することが重要です。

