社会保険料の納付が遅れると、本来の保険料に加えて延滞金がかかる場合があります。
資金不足だけでなく、口座振替の残高不足や納付書の見落としも、納付遅延の原因になります。
特に注意したいのは、延滞金が発生する条件と、計算を始める日が異なることです。
督促状の指定期限までに納めなかった場合、原則として本来の納付期限の翌日までさかのぼって計算されます。
この記事では、事業主が納める社会保険料を中心に、延滞金の計算方法、滞納した場合の流れ、猶予制度、法人の会計・税務処理を解説します。
社会保険料の延滞金とは?
社会保険料の延滞金とは、保険料の納付が遅れ、法律で定める条件に該当した場合に徴収される金銭です。
未納の保険料とは別に負担するため、滞納が続けば資金繰りをさらに圧迫します。
本記事では、日本年金機構が徴収する厚生年金保険料、健康保険料、子ども・子育て拠出金を中心に説明します。
国民健康保険料・国民健康保険税や労働保険料などは、制度や取扱いが異なるため、それぞれの納付先への確認が必要です。
また、国民年金保険料にも延滞金の制度がありますが、計算時の端数処理などは厚生年金保険料等と同じではありません。
「社会保険料」という総称だけで判断せず、納付書に記載された保険料の種類を確認しましょう。
日本年金機構「国民年金保険料の延滞金」
延滞金はいつから発生する?起算日の注意点
督促状の指定期限と計算開始日は異なる
厚生年金保険料等を納付期限までに納めていない場合、督促状が送付されます。
原則として、その指定期限までに納付すれば延滞金はかかりません。
一方、指定期限を過ぎて納付した場合、通常は「本来の納付期限の翌日から、納付した日の前日まで」が計算対象になります。
督促状の指定期限の翌日から数えるわけではありません。
つまり、指定期限を1日過ぎただけでも、延滞金が1日分だけで済むとは限りません。
督促状が届いたら、本来の納付期限と指定期限を分けて確認する必要があります。
日本年金機構「延滞金について」
給与から天引きしていても納付は必要
従業員負担分を給与から差し引いていても、会社から納付先への支払いが済んでいなければ、納付したことにはなりません。
事業主は、従業員負担分と事業主負担分を合わせて納めます。
給与計算と保険料の納付は別の業務です。
給与明細への記載だけで処理を終えず、口座振替の結果や領収済みの記録まで確認する運用を整えましょう。
日本年金機構「保険料を払う/保険料の猶予を受ける」
督促から差押えまでの流れ
納付が遅れると、督促状の送付や電話などによる納付の働きかけが行われます。
督促状の指定期限までに完納されない場合は、滞納処分の対象になり得ます。
日本年金機構は、納付指導を行っても完納の見込みが立たない場合、財産調査を行い、必要に応じて差押え・換価を実施すると説明しています。
調査対象には、預金、不動産、取引先に対する売掛金などが含まれます。
売掛金が差し押さえられると、予定していた入金を仕入れや給与の支払いに使えなくなる可能性があります。
取引先への調査もあり得るため、延滞金の負担だけでなく、事業運営への影響を考えることが必要です。
ただし、「滞納してから何日後に必ず差押えになる」という一律の予定表があるわけではありません。
会社の状況や納付計画などを踏まえて対応されます。
督促状を受け取った時点で、納付できる金額と時期を整理し、管轄の年金事務所に連絡しましょう。
日本年金機構「日本年金機構の取り組み(保険料徴収)」
社会保険料の延滞金の計算方法
2026年の利率は年2.8%・年9.1%
厚生年金保険料等の延滞金は、未納額、対象日数、適用利率を基に計算します。
2026年1月1日から12月31日までの期間に適用される割合は、次のとおりです。
計算対象の期間年率納付期限の翌日から3カ月を経過する日まで2.8%上記期間の翌日以降9.1%
基本の計算式は「対象保険料額×年率×対象日数÷365」です。
低い利率と高い利率の期間がある場合は、それぞれ計算して合算します。
計算の基礎となる保険料額は1,000円未満を切り捨て、算出した延滞金は100円未満の端数を切り捨てます。
利率は暦年ごとに確認し、年をまたぐ場合は適用期間を分けて計算します。
未納保険料100万円の計算例
仮に、計算対象の保険料額が100万円、延滞金の対象日数が30日で、全期間に2026年の低い利率が適用される場合を考えます。
督促状の指定期限を過ぎており、免除などがない前提です。
100万円×2.8%×30日÷365=約2,301円
100円未満を切り捨てると、延滞金は2,300円です。
この30日は、本来の納付期限の翌日から数えた対象日数です。
実際の計算では、納付日、分割納付の履歴、猶予の有無なども確認する必要があります。
複数月分を滞納している場合は、月ごとに納付期限が異なるため、まとめて一つの期間で計算しないようにしましょう。
なお、延滞金は日数に応じて計算されるもので、単純に複利で増える仕組みではありません。
ただし、3カ月経過後は適用利率が上がるため、同じ未納額でも1日当たりの負担は大きくなります。
払えない場合に利用を検討する猶予制度
換価の猶予
保険料等を一度に納めることで事業の継続や生活の維持が難しくなるおそれがあり、納付に対する誠実な意思が認められる場合などには、換価の猶予を申請できます。
申請による換価の猶予は、原則として対象保険料等の納付期限から6カ月以内の申請が必要です。
認められると分割納付ができ、猶予期間中の延滞金の一部が免除されます。
売上があるのに入金まで時間がかかるなど、一時的な資金不足についても、制度の要件に該当するか相談することが大切です。
納付の猶予
災害で財産に相当な損害を受けた場合など、一定の事情によって納付が難しくなったときは、納付の猶予が認められる可能性があります。
認められた場合は一定期間納付が猶予され、猶予期間中の延滞金の全部または一部が免除されます。
換価の猶予とは要件が異なるため、「赤字だから利用できる」と自己判断せず、資金不足の原因を具体的に伝えて確認しましょう。日本年金機構「厚生年金保険料等の猶予」
分納の相談だけで延滞金が止まるわけではない
分割納付の相談をしたことと、法令に基づく猶予が認められたことは別です。
分納が認められても、それだけで延滞金が免除されるとは限りません。
相談時には、利用する制度、対象金額、納付計画、延滞金の取扱いを確認してください。
連絡を入れただけで納付期限が変更されたと考えず、手続きの進捗と通知内容を管理しましょう。
日本年金機構「保険料徴収」
猶予申請で準備する書類と資金繰り表
猶予の申請では、所定の申請書に加え、財産や収支の状況を示す書類が必要になります。
換価の猶予では、猶予を受けようとする金額が
100万円以下の場合は「財産収支状況書」
100万円を超える場合は「財産目録」と「収支の明細書」を提出します。
日本年金機構「猶予の申請の手引き」
相談に備えて、試算表、預金残高、売掛金の入金予定、買掛金や給与の支払予定も整理しておくと、現状を説明しやすくなります。
資金繰り表では、売上を計上した日と実際の入金日を区別します。
例えば、今月の売上が増えていても、その入金が2カ月後であれば、今月の納付資金には使えません。
また、滞納分だけを支払える計画では不十分です。
今後発生する毎月の保険料も資金繰りに組み込み、納付を続けられる金額を検討しましょう。
見込みの低い入金を前提に無理な約束をするより、確実性の高い数字を示すことが重要です。
社会保険料の延滞金は損金算入できる?
法人税では税金の延滞税と区別する
法人が負担する社会保険料の延滞金は、原則として損金算入できます。
法人税法が損金不算入としている国税の延滞税や地方税法上の延滞金とは、根拠となる法律が異なるためです。
一方、国税の延滞税や、通常の滞納による地方税の延滞金は原則として損金不算入です。
ただし、地方税の納期限の延長に伴う一定の延滞金などには例外があります。
「延滞金」という名称だけで一律に処理しないようにしましょう。
法人税法第55条、国税庁「租税公課等の損金算入の可否と租税の損金算入時期」
ここでの説明は法人税に関するものです。
個人事業主本人の国民年金や国民健康保険に関する所得税上の取扱いへ、そのまま当てはめることはできません。
損金算入できても支払負担は残る
損金算入とは、法人税の所得計算上、費用として差し引けるという意味です。
支払った延滞金の全額が返金される制度ではありません。
延滞金が発生すれば、その分だけ現金は減ります。
税務上の取扱いを理由に納付を遅らせず、期限内納付を基本に資金を確保しましょう。
延滞金の計上時期と仕訳
通知の有無だけで計上時期を決めない
延滞金をいつ費用にするかは、支払日だけでなく、期末時点の債務の状況を確認して判断します。
法人税基本通達では、債務が成立していること、支払いの原因となる事実が発生していること、金額を合理的に算定できることが、債務確定の判定要件とされています。
国税庁「法人税基本通達2-2-12」
そのため、「通知が届いたら必ず当期」「支払っていないから翌期」と機械的に判断するのは適切ではありません。
督促や納付の状況、対象期間、猶予・免除の有無を整理し、会計上の費用計上と税務上の損金算入をそれぞれ確認します。
勘定科目と仕訳
延滞金は、会社の会計方針に応じて「租税公課」や「雑損失」などで処理します。
ここでは「租税公課」を使い、社会保険料の延滞金1万円を処理する例を紹介します。
まだ費用計上していない延滞金1万円を普通預金から支払った場合、
借方を「租税公課10,000円」、
貸方を「普通預金10,000円」とします。
摘要には「社会保険料延滞金」と記載し、対象期間と納付書をひも付けて保存しましょう。
同じ租税公課で処理していても、税金の延滞税とは区別できるようにしておくことが大切です。
決算時と翌期支払時の仕訳
期末に費用計上の要件を満たしているものの、
延滞金1万円が未払いの場合は、
借方を「租税公課10,000円」、
貸方を「未払金10,000円」とします。
翌期にその金額を普通預金から支払ったときは、
借方を「未払金10,000円」、
貸方を「普通預金10,000円」として未払金を取り崩します。
支払時に再び租税公課を計上すると二重計上になるため、注意してください。
元本の保険料は延滞金と分けて処理します。
事業主負担分、従業員からの預り金、すでに計上した未払額を確認し、納付総額をそのまま会社の費用にしないことが大切です。
延滞金の納付書が届く前にできることは?
未納保険料の金額、対象月、納付期限、督促状の指定期限を一覧にし、納付できる日を確認します。
金額の見込みが必要な場合は、自己計算だけで確定させず、年金事務所に確認すると支払計画を立てやすくなります。
まとめ:納付期限の管理と早期相談が重要
社会保険料の延滞金は、督促状の指定期限を過ぎると、本来の納付期限の翌日にさかのぼって計算される点が重要です。
放置すれば、預金や売掛金の差押えにつながる可能性もあります。
納付が難しいときは、資金繰り表を用意し、換価の猶予や納付の猶予の対象になるか早めに相談しましょう。
会計では保険料の元本と延滞金を分け、税金の延滞税とも区別して記録します。
再発防止には、納付日の共有、口座残高の事前確認、担当者不在時の代替対応が有効です。
毎月の資金繰りに社会保険料を組み込み、納付完了まで確認する仕組みを整えましょう。

