「インボイス制度が始まってから、ファクタリングの手数料にも消費税がかかるようになったのでは?」
「ファクタリングで売却する請求書は、適格請求書でなければならない?」
インボイス制度が始まったことで、このような疑問を持つ事業者もいるでしょう。
結論からいうと、一般的な売掛債権のファクタリングは「金銭債権の譲渡」にあたり、消費税の非課税取引です。
そのため、インボイス制度が開始されたからといって、売掛債権の売却代金に新たに消費税が課されるわけではありません。
国税庁も、金銭債権の譲渡を消費税の非課税取引として取り扱っています。
一方、インボイス制度は企業間の取引条件や消費税の納税額、資金繰りには影響します。
その結果、事業者によっては納税資金や運転資金を早めに確保する必要が生じ、ファクタリングが資金繰り対策の選択肢になることがあります。
さらに、2026年にはインボイス制度に関する経過措置が見直されました。
2026年10月から免税事業者等からの課税仕入れに係る仕入税額控除の割合が変更されるなど、制度は現在も移行期間にあります。
この記事では、インボイス制度とファクタリングの関係、ファクタリング手数料の消費税、2026年以降の制度変更、資金繰りへの影響、利用時の注意点までわかりやすく解説します。
インボイス制度とは?
インボイス制度の正式名称は「適格請求書等保存方式」です。
2023年10月1日から開始されました。
課税事業者が原則として仕入税額控除を受けるためには、一定の事項を記載した帳簿と適格請求書等を保存する必要があります。
適格請求書には、適格請求書発行事業者の名称や登録番号、取引年月日、取引内容、税率ごとに区分した対価の額、適用税率、消費税額などを記載します。
インボイスを発行できるのは、税務署長から登録を受けた「適格請求書発行事業者」です。
そのため、免税事業者などインボイス発行事業者ではない事業者から課税仕入れをした場合、買い手は原則として仕入税額控除を受けることができません。
ただし、制度開始後すぐに全額控除できなくなったわけではなく、現在は経過措置が設けられています。
ファクタリングとは?
ファクタリングとは、企業や個人事業主が保有する売掛債権を支払期日前にファクタリング会社へ譲渡し、現金化する方法です。
例えば、取引先に対して100万円の売掛金があり、入金日が2か月後だったとします。
この売掛債権をファクタリング会社へ譲渡すれば、所定の手数料などを差し引いた金額を支払期日前に受け取ることができます。
銀行融資との大きな違いは、適正なファクタリングであれば「お金を借りる契約」ではなく「売掛債権を売却する契約」であることです。
金融庁も一般的なファクタリングについて、事業者が保有する売掛債権等を期日前に一定の手数料を差し引いて買い取るサービスであり、法的には債権の売買、つまり債権譲渡契約であると説明しています。
ファクタリングには消費税がかかる?
インボイス制度とファクタリングを考えるうえで、まず理解しておきたいのが消費税の扱いです。
売掛債権の譲渡は消費税の非課税取引
消費税法では、金銭債権などの譲渡は非課税取引とされています。
売掛金も金銭債権の一種です。
そのため、通常のファクタリングによって売掛債権をファクタリング会社へ譲渡しても、その債権譲渡自体に消費税が課されるわけではありません。
例えば、110万円の売掛債権を100万円でファクタリング会社へ売却したとします。
この100万円に対してさらに10%の消費税が上乗せされる、という仕組みではありません。
ファクタリング手数料にも原則として消費税はかからない
通常の買取型ファクタリングでは、売掛債権の額面とファクタリング会社が支払う買取代金との差額が、実質的なファクタリング手数料となります。
国税庁は、金銭債権について債権額と譲受対価との差額として生じる「債権譲受差益」を非課税として取り扱うことを示しています。
したがって、一般的な債権買取型ファクタリングにおける買取差額について、消費税が別途10%加算されるわけではありません。
ただし、ファクタリング会社などから債権譲渡とは別の役務提供を受け、そのサービス料金が別途設定されている場合には、取引内容によって消費税の課税対象となる可能性があります。
また、司法書士へ債権譲渡登記の手続きを依頼した場合の司法書士報酬など、第三者が提供するサービスについては別途消費税が発生することがあります。
「ファクタリングに関連する費用はすべて非課税」と考えないことが重要です。
ファクタリングする請求書にもインボイスは必要?
ここは特に誤解されやすいポイントです。
インボイスは、基本的に「商品やサービスを販売した事業者」と「購入した事業者」の間の消費税処理に関係する書類です。
ファクタリング会社へ売掛債権を譲渡することとは別の取引です。
例えば、A社がB社へ110万円の商品・サービスを提供し、その後A社が110万円の売掛債権をファクタリング会社C社へ譲渡したとします。
この場合、商品・サービスの取引はA社とB社の間で成立しています。
A社が適格請求書発行事業者であり、インボイスの交付義務がある取引であれば、A社からB社へ適格請求書を交付します。
その後、A社がC社へ売掛債権を譲渡しても、元の売買取引がA社とC社の取引に変わるわけではありません。
したがって、「ファクタリングを利用するために、ファクタリング会社宛てのインボイスを新たに発行する」という考え方ではありません。
インボイス登録していないとファクタリングできない?
原則として、インボイス登録をしていないことだけを理由にファクタリングが利用できなくなるわけではありません。
ファクタリング会社が確認する主なポイントは、売掛債権が実際に存在するか、支払期日が確定しているか、売掛先から回収できる可能性が高いか、二重譲渡などがないかといった点です。
そのため、免税事業者や適格請求書発行事業者ではない事業者でも、売掛債権の内容や売掛先の信用状況などによってはファクタリングを利用できる可能性があります。
ただし、インボイス制度が事業そのものに影響し、その結果として売上や取引条件が変化すれば、間接的に審査へ影響する可能性はあります。
「売掛先が免税事業者だと審査が不利」は正しい?
必ずしも正しくありません。
インボイス制度で重要になるのは、基本的には商品やサービスを「売る側」のインボイス登録状況です。
例えばファクタリング利用者A社が商品を売り、売掛先B社が商品を購入するケースでは、B社が仕入税額控除を受けるために問題となるのはA社が適格請求書発行事業者かどうかです。
B社自身がインボイス発行事業者かどうかは、A社からB社に対する売掛債権の支払義務を直接左右するものではありません。
したがって、「売掛先が免税事業者ならファクタリングの審査が厳しくなる」「手数料が高くなる」と一律に説明するのは適切ではありません。
ファクタリング審査では、売掛先の財務状況、事業実態、支払実績、債権の内容などを総合的に確認することが重要になります。
インボイス制度が資金繰りに与える3つの影響
ファクタリングそのものに消費税が加算されるわけではありませんが、インボイス制度は企業のキャッシュフローに間接的な影響を与えます。
課税事業者になったことで消費税納税が発生する
インボイス制度への対応を目的として、免税事業者から適格請求書発行事業者になった事業者もあります。
適格請求書発行事業者になると、原則として消費税の申告・納税が必要です。
その結果、以前は必要なかった消費税納税のための資金を準備する必要が生じます。
ただし、消費税は単純に「売上の10%を納める税金」ではありません。
一般課税では、原則として売上に係る消費税額から仕入れなどに係る消費税額を差し引いて納付税額を計算します。
簡易課税や各種特例を利用する場合は計算方法が異なります。
取引条件が変わる可能性がある
インボイス発行事業者でない事業者との取引では、買い手側の仕入税額控除が制限されるため、価格や契約条件について協議が行われる場合があります。
ただし、買い手がインボイス未登録であることだけを理由に一方的な値下げや不当に不利益な条件を押し付けると、独占禁止法や取適法などの観点から問題となる可能性があります。
公正取引委員会も、インボイス制度を理由とした取引条件の変更については、双方で十分に協議する必要があるとの考え方を示しています。
消費税の納税時期に資金需要が集中することがある
売掛金の入金まで30日、60日、90日などの支払サイトがある企業では、利益が出ていても手元資金が不足する場合があります。
さらに消費税や法人税、社会保険料、給与、仕入代金などの支払いが重なれば、一時的に資金繰りが厳しくなることがあります。
こうした場面では、入金待ちの売掛債権を早期に資金化するファクタリングが選択肢になることがあります。
2026年以降のインボイス制度はどう変わる?
2026年9月現在、特に注意したいのが経過措置の変更です。
従来、免税事業者などインボイス発行事業者以外からの課税仕入れについては、2023年10月から2026年9月まで仕入税額相当額の80%を控除できる仕組みとなっていました。
令和8年度税制改正により、その後の経過措置が見直されています。
2026年10月1日から2028年9月30日までは70%
2028年10月1日から2030年9月30日までは50%
2030年10月1日から2031年9月30日までは30%
を控除でき、その後は原則として控除できなくなる方向となっています。
2割特例と3割特例にも注意
インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった一定の小規模事業者については、「2割特例」が設けられています。
2割特例は、2023年10月1日から2026年9月30日までの日が属する課税期間について適用できます。
そのため、個人事業者の場合は2026年分まで対象となり、3月決算法人で一定の要件を満たす場合には2027年3月期まで対象となるケースがあります。
さらに2026年度税制改正により、一定の個人事業者については2027年分・2028年分の消費税申告で納付税額を売上税額の3割とする「3割特例」が設けられました。
ただし、3割特例は法人には適用されません。
資金繰りを考える際には、「2割特例が終了するから一律に税負担が急増する」と考えるのではなく、自社が一般課税、簡易課税、2割特例、3割特例のどれに該当するのかを確認することが重要です。
インボイス制度下でファクタリングを利用するメリット
インボイス制度による消費税納税や取引条件の変化によって、一時的な資金不足が発生した場合、ファクタリングにはいくつかの特徴があります。
まず、銀行融資とは異なり、適正な債権売買型ファクタリングであれば借入金ではありません。
売掛債権を早期に現金化する仕組みであるため、新たな借入金を直接増やさずに手元資金を確保できます。
また、ファクタリング会社によっては短期間で審査・入金まで進められるため、
「売掛金はあるものの入金日まで資金が足りない」
という状況に対応しやすい点も特徴です。
審査では利用企業自身の信用状況だけでなく、売掛先の信用力や債権の確実性なども重視されます。
そのため、赤字決算などを理由に銀行融資が難しい場合でも、ファクタリングを利用できる可能性があります。
ただし、「赤字でも必ず利用できる」「税金を滞納していても必ず利用できる」という意味ではありません。
税金の滞納があり、売掛債権が差押えの対象となる可能性がある場合などには、ファクタリング会社の審査に影響することがあります。
ファクタリング利用時に準備しておきたい書類
スムーズに審査を進めるには、請求書だけではなく売掛債権の実在性を確認できる資料を準備しておくことが重要です。
代表的なものとして、売掛先へ発行した請求書、発注書・契約書・納品書・検収書、売掛先から過去に入金された履歴が確認できる通帳やインターネットバンキングの明細、決算書・確定申告書、本人確認書類、法人の場合は登記事項証明書などがあります。
必要書類はファクタリング会社や取引内容によって異なります。
インボイス制度が始まったから追加書類が必要になったというよりも、架空債権や二重譲渡を防ぎ、債権が実際に存在することを確認するために関連資料が必要になると考えるとよいでしょう。
ファクタリング利用時の注意点
手数料だけでなく実際の入金額を確認する
ファクタリングを検討するときは、表示されている手数料率だけを見るのではなく、「最終的にいくら振り込まれるのか」を確認しましょう。
債権譲渡登記などが必要になる場合は、別途費用が発生することもあります。
複数回継続して利用すると、その都度コストが発生するため、慢性的な資金不足をファクタリングだけで補い続けることには注意が必要です。
「銀行融資にまったく影響しない」とは限らない
適正なファクタリングは借入ではないため、銀行融資のように借入金残高が直接増加するものではありません。
しかし、金融機関は決算書だけでなく資金繰りや売掛債権の状況なども確認します。
ファクタリングを恒常的に利用している場合には、「なぜ毎月売掛債権を早期資金化する必要があるのか」という点を確認される可能性があります。
したがって、「ファクタリングなら銀行融資に一切影響しない」と断定するのではなく、短期的な資金繰りと中長期的な財務改善を分けて考えることが大切です。
償還請求権があるだけで違法とは限らない
ファクタリングでは「ノンリコース」という言葉がよく使われます。
ノンリコース型では、原則として売掛先が倒産するなどして債権を回収できなかった場合でも、利用者がその信用リスクを負わない契約となります。
ただし、「償還請求権がある契約=直ちに違法」と判断することはできません。
金融庁は、契約書上は債権譲渡となっていても、売主に過大な買戻し義務を負わせているなど、経済的に貸付けと同様の機能を有する取引については貸金業に該当する可能性があると注意喚起しています。
契約名称だけで判断せず、回収不能時の負担、買戻し義務、保証の内容などを確認することが重要です。
給与ファクタリングや偽装ファクタリングに注意する
金融庁は、ファクタリングを装った高金利の貸付けを行うヤミ金融業者について注意喚起しています。
また、個人の給与債権を買い取る「給与ファクタリング」については、業として行う場合、貸金業に該当するとの考え方が示されています。
極端に低い買取金額を提示する業者や、売掛金が回収できなかった場合に利用者へ全額返済を要求するような契約については、特に慎重に確認しましょう。
インボイス制度とファクタリングについてよくある質問
ファクタリング会社はインボイス登録している必要がありますか?
売掛債権そのものの譲渡は消費税の非課税取引であるため、「ファクタリング会社がインボイス登録していなければ債権を売却できない」ということはありません。
ただし、ファクタリング会社が債権譲渡とは別に課税対象となるサービスを提供する場合には、インボイス登録状況が関係することがあります。
免税事業者でもファクタリングできますか?
可能性があります。
インボイス登録の有無だけでファクタリング利用の可否が決まるわけではありません。
売掛債権の存在、売掛先の信用力、入金実績、支払期日などを総合的に審査します。
インボイス登録番号がない請求書は買い取ってもらえませんか?
必ずしもそうではありません。
適格請求書としての要件と、ファクタリングにおいて売掛債権が存在するかどうかは別の問題です。
ただし、請求内容に誤りがある、売掛先との間で金額が確定していない、請求の根拠となる取引を確認できないといった場合には、ファクタリング審査に影響する可能性があります。
まとめ
インボイス制度が始まったからといって、ファクタリングそのものに新たに消費税が課されるようになったわけではありません。
売掛金などの金銭債権の譲渡は消費税の非課税取引であり、一般的な買取型ファクタリングにおける債権額と買取代金との差額についても、原則として消費税は課されません。
また、インボイスは本来の商品・サービス取引に関する仕入税額控除のための制度です。
ファクタリングによって売掛債権を譲渡しても、元の取引における売り手と買い手のインボイス関係がなくなるわけではありません。
一方、インボイス制度によって課税事業者となった事業者では、消費税納税のための資金確保が必要になります。
2026年10月からは免税事業者等からの課税仕入れに係る控除割合も70%へ変更されるほか、一定の個人事業者を対象とした3割特例も新設されています。
こうした制度変更によって資金繰りが一時的に厳しくなった場合、売掛債権を早期に現金化できるファクタリングは有効な選択肢の一つです。
ただし、ファクタリングは売掛金を早く受け取る代わりに手数料などのコストが発生します。
インボイス制度による税負担、売掛金の入金時期、毎月の固定費、納税予定額などを把握したうえで、銀行融資や公的融資なども含め、自社に適した資金調達方法を選択することが重要です。
